ショウウインドウの彼女

小さな商店街の一角にある、昔ながらの洋品店。
晴れた日の午後、この洋品店のショウウインドウには
必ず現れる三毛の“彼女”がいる。
彼女は洋品店の主の飼い猫なのだろう、
最も日が当たるこの時間はこの場所にほぼいる。
猫はお気に入りの場所を見つける天才だ。

自宅で仕事をしている私にとって、
この彼女に会うことは外出時の密かな楽しみになっている。
スーパーや郵便局、銀行に行くときは、
極力、彼女がいそうな時間を見計らって出かける。
案の定、今日もいた。
ガラス越しに彼女の姿を見つけると、ついニヤニヤしてしまう。

彼女はたくさんの人が店先を通りすぎても知らん顔で、
ぽかぽかの日差しを一身に浴びて微睡む。
彼女がいるショウウインドウは、
私の目には別世界のように映り、そこは決して崩せない
“幸せ”という結界が張られているようだ。

時折、私と同じように彼女に見とれている人を見かける。
今日も先客あり。
この人もかなりの猫好きとみた。
だって、ほとんどの人はそこに猫がいるとは気づかず、
みんな素通りしていくのに。
よっぽどの猫アンテナが働かなければ、
そうそうショウウインドウに本物の猫がいるとは
思わないだろうから。

でも、小さな子どもたちはすぐに気づくようで、
今日もショウウインドウのガラスに顔を近づけて
「にゃんこ、にゃんこ」と口々に小さく呼びかけている。

それでも彼女はちらりと薄目を開けただけ。
全く動じず、今日も春の気配が漂う
心地よい陽射しの中で昼寝を勤しむ。